岡山大学俳句研究部より、3月の俳句が届きました。
今月の句は「春風やパテラテンドンは字引にない」です。
解説
「パテラテンドン」を広辞苑で引いてみた。果してどこにも掲載されていない。正に掲句の通り字引に掲載されていないのである。ひょっとしたら、医学用語(解剖学)かもしれないと思い、百科事典の解剖図の項を開いてみてやっと理解できた。解剖図(skeleton)には、「パテラテンドン」のことを「膝蓋骨」と表している。また、脇に「kneecap」とあるので、日本語に訳すと、文字通り膝の上を覆う蓋のことで、骨と筋肉とを繋ぐ大切な器官、いわゆる「腱」と呼ばれるものの一種らしい。
筆者が知らないだけかもしれないが、医学用語で、俳句に取り入れられている言葉は他にもあるのだろう。
そう言えば、以前、岡山の句会で「蝶形骨」という骨の名称が句に詠み込まれた折に、該当する骨が体のどの辺りにあってどんな形をしているのか教えてもらったことを思い出した。
さて、掲句に戻ろう、季節は言うまでもなく春。心地良い春風に包み込まれた日に、作者はパテラテンドンと言う言葉を耳にして辞書を引いてみたのだ。しかし、広辞苑の何処を見ても載っていない、広辞苑に掲載されていない言葉もあるんだ!と狐に抓まれでもしたような不思議な発見に出会うことができたのも、柔らかく暖かい春風のお蔭だったのであろう。
初めてお目にかかる言葉というのは、取っつきにくい面もあるが、「パテラテンドン」という言葉をおまじないの様に何度も口にする内に、不思議にも春らしい響きが醸し出されてくるではないか。
新しい言葉を句に取り込む場合、俳句に馴染むかどうかということについては、諸説紛々でその是非の判断は難しいが、時代時代で新しい季語が誕生してきたように、句に取り込まれていく新しい言葉が生まれても全く不思議ではない。寧ろ、俳句をマンネリ化させず進化させていくには、世の中を映し出す新しい言葉の活用や、掲句のような一見、俳句にとって異質に感じられる言葉の斡旋をする冒険も必要であろう。
掲句の季語は春の風であるが、春の得体も知れない摩訶不思議な気分を表すなら「蜃気楼」、「春の宵」、「春塵」などでも、それぞれに句に異なった趣きを醸し出してくれそうで面白い。
さて、今回の鑑賞には選者も、少々手間取った様子で
「パテラテンドンについて調べてはみたけどハッキリした情報は得られず何となくしか理解できなかった!それにしても絶妙な言葉のチョイス…たしかに存在してるけど掴みどころがない感じというか、対象と自分との距離を意識する瞬間を切り取ったものに思えました…。
春風というものも自明のものではなくて、なにか感じる主体の感覚によるところが強いというか、匂いとか感慨とかそういうものに規定されている存在であるように思われて、パテラテンドンの意味を知ろうとした経緯はわかりませんが、言葉として確かにあるのに訳がわからないふわふわした感じが春風と響き合っているように感ぜられました。」との弁。とにかく、掴みどころのない句に春を感じ取ってくれたようだ。
一方の作者は、
「春風というのは心地良いものであり、春の訪れと冬が明けた喜びを感じさせてくれるものである。パテラテンドンという言葉は馴染みがなく、しかもカタカナ表記で辞典にすら載っていないが、私は、言葉の雰囲気から春、春風を感じた。だから季語もそのまま春風を使っている。また、パテラテンドンを日本語にすると膝蓋腱で、これに不具合があるとうまく歩けないらしい。」と語ってくれた。
19文字で口語調、しかも破調という所謂、伝統的な俳句からすると挑戦的な句ではあるが、若いが故の挑戦心に勇気に拍手を送りたい。
パテラテンドンという響きに春を感じ取ったという作者の若くて柔軟な感性に脱帽だ。
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