岡山大学俳句研究部より、7月の俳句が届きました。今月の句は
冷麺の隙間に少し湯の香り」です。

作者コメント

昼休みに冷麺を啜っていた時にできた句。いざ食べようと口に近づけた時、ふと麺から湯の香りがした。ただそれだけなのだが、どこか心が落ち着いた。麺の光沢も増して美味しそうに見えた。

解説

この句の季語は「冷麺」、あの喉越しの良い「ソーメン」のことで、もちろん季節は夏です。

思わず「レ―メン」とでも読んでしまいそうですが、辞書を引いてみると、正しい読みは「ひやめん」、同義語に「冷素麺」があって「ヒヤソーメン」と読みますが、こちらの方が一般的なのかもしれません。

さて、日本の「ソーメン」と言えば、奈良の「三輪素麺」や兵庫の「揖保の糸」などが殊に有名ですが、良く冷やした麺に、紫蘇やネギ、生姜などの薬味を添え、素朴で地味な味の取り合わせを楽しみながら、ツルツル~っと、音を立てて啜る醍醐味は堪らない。

一方、通称「レ―メン」と呼ばれるのは、俳句の世界では「冷し中華」のこと。こちらは、トッピングの色も鮮やかで、見るからに食欲をそそられます。

前置きが長くなってしまいましたが、掲句の作者の目の付けどころは誠にユニーク。

冷えた麺の中に湯の香を感じたというのだから、さぞ、鋭敏な舌と味覚をお持ちなのでしょう。まさか、茹で上がったばかりの麺の洗い方が不十分で、生暖かいところが残っていたという訳ではあるまい。

本当のところは、作者に聞いてみるしかないが、水と湯の香を嗅ぎ分けることのできる鋭敏な嗅覚と目に飛び込んでくる麺の光沢とが相俟って生まれた、俳人ならではの秀句です。

先頭に戻る