岡山大学俳句研究部より、1月の俳句が届きました。
今月の句は「読初の仮名のくろぐろ光りをり」です。

俳句のぼり(1月)

 

解説

年が改まり、さて、今年はどの書から読み始めようかと、書棚に並ぶ背表紙に目を遣り、手に取った書のページをパラパラ捲りながら、お気に入りを絞り込んでいく時間は、心の躍るひと時で楽しいもの。

「読初」を歳時記で調べてみると、「「昔は、正月吉書の次に、冊子の読み初めとして、朗々と音読するもので、男子は漢籍など、女子は文正冊子を読みしなり」と柳亭種彦の『用捨箱』にある様に、読み初めの習慣があったと説明されていて、現在では、音読の習慣は無く、座右の愛読の書を初めてひもとくことを言う」とあり、新年の季語である。

自分の好きな作家の全集や、昨年買ったばかりで、忙しさに感けて読み終えることができなかった書、これまでに何度も読んだことはあるが、もう一度、読み直してみたいと思える書などがずらりと並んでいる書棚から、今年最初の1冊を選び出すのは楽しくも、至難の技であるが、そんなプロセスを経て、作者は、遂に1冊を選び出したのだ。

その1冊と対峙した時の感想を作者は、作句のきっかけを「年が改まって、新たな気持ちで本を手にした時、整然と並んだ文字、特にシンプルな仮名文字のひとつ一つが、一層、黒くつるりと浮かび上がって見えた。」と伝えてくれた。

確かに、書籍に用いられる活字には、通常、楷書や明朝体の使用されることが多いので、漢字よりも画数の少ない仮名の方が、動的で、一文字一文字に訴える力がありそうだ。

筆者が、嘗て暮らしたことのある、中東の地では、28個のアラビア文字が日常的に使われているが、あの独特の流麗で力強い文字に最初にお目にかかった時の衝撃が、掲句を見た瞬間に蘇ってきた。

掲句では、作者がページを捲った瞬間、いきなり、くろぐろとした仮名が目に飛び込んできて、新年早々抱いた作者の抱負とも相俟って、余計に神々しく耀いて見えた瞬間が詠まれている。

作者の手にした書は、歴史書、歌集、はたまた哲学書など、果たして何であったのだろうか?などとと、想像力を掻き立ててくれるのも、また愉しい。

一方、掲句の選者は、「発見にリアリティーがあり、視点の新鮮さが季語と合っている」と評してくれている。

確かに、「読初」という季語を用いた句には、どちらかと言うと、書籍のタイトルやそのストーリー、登場人物や作者などを取り上げている例が多いように思うが、掲句では、目に飛び込んで来た仮名に素直な感動を覚え、そのくろぐろとした文字の艶に焦点を当て、そこに自らの決意を重ね合わせて詠った点が、撰者の評にもあるとおり、作者の手柄であるように思う。

昨今では、出版される書籍の数も膨大で、その中から一冊を選ぶ苦労は並大抵のものでは無いが、常日頃から、流し読みに偏ることなく、時には、書籍と正面から対峙したいと思う気にさせてくれた掲句に感謝したい。

岡山大学俳句研究部 過去の作品

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