岡山大学俳句研究部より、2月の俳句が届きました。

今月の句は「写真撮る祖父の中腰冬日向」です。
俳句のぼり2月

解説

掲句は「中腰」という言葉の斡旋がポイントで良く利いている。中腰と聴けば、様々な場面が思い浮んでくるので、それぞれの景に思いを至らせるだけでも楽しい。掲句の場合には、孫の写真を嬉々として撮り続けている祖父の姿が浮かんでこないだろうか…。思わず微笑ましささえ感じてしまうほどだ。

写真撮影の好きな人たちにとって、ある被写体を撮る場合、少しでも良い写真(構図)を撮りたいとの願望から、様々な角度から何度もシャッターを切ってしまうのは常で、スリル満点の場面を撮るために敢えて危険な場所から身を乗り出して撮影を試みるカメラマンも居たりする。

掲句の場合にも、日の当たる寒い日に、お孫さんの素敵な写真を撮りたい一心で、右に回ったり左へ移動したり、立体的な構図を得んが為に、しゃがみ込んで低い姿勢で写したりして、頻りに動き回っていた筈であるが、掲句が切り取ったのは、そんな場面の中で中腰の姿勢を取った祖父の姿である。

晴れているとは言え、寒い最中で取る不安定な中腰の姿勢は、間違いなく腰に負担が掛かるであろう、お年寄りであれば尚更のことである。そんなにまでして、自分を撮ってくれているんだという祖父への感謝の念、気遣い、そして腰を痛めないでもらいたいと労わりの気持ちまでが「中腰」から伝わってくるようで、お爺ちゃんへの愛が溢れていて温かい。

掲句に対し、選者は、

「祖父に対してのあらたな発見が「中腰」だったところに、あたたかさと共感を覚えます…。しかも掲句の場面が冬の日の、すこしうららかな淡い光の中の光景であるところに。ふとかえりみたときに覚える祖父との絶妙な距離感との響き合いがあってとても素敵です…。」

とコメントしてくれている。

ちなみに、作者は「この句は、成人式前に祖父が慣れないスマホのカメラでたくさん写真を撮ってくれた(なぜか連写になりましたが)時の祖父の姿勢をそのまま詠んだものです。祖父はよく足が痺れると聞いているし、これまで、スマホカメラを使っているのを見たこともなかったのにと思うと、とても嬉しかったので、その気持ちを、素直に季語「冬日向」に込めて詠んでみました。」と作句の動機を伝えてくれた。

寒い冬の日の煌めく光が、我を忘れて写真撮影を続ける必ずしも足腰の頑強でない祖父と被写体である孫とをつなぐ目には見えない絆の存在を察知し、まるで二人を賞賛しているかのようにも感じられて、ほのぼのとした温もりを感じさせてくれる佳句に仕上った。

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