岡山大学俳句研究部より、1月の俳句が届きました。
今月の句は「指紋濃きセロハンテープ古日記」です。

解説
筆者も、会社勤めをしていた頃、週末になると1週間を振り返りながら、日々の記憶をほんの数行でも残しておこうと日記帳と向き合っていた頃のあったことを思い出した。
さて、それから如何ほどの年月が経ったであろう?
掲句の季語は「古日記」で、季節は新年、同義語に「日記果つ」や「日記買う」などもある。誰しも1年間書き綴ってきた古日記に愛着はあるものの、歳の瀬が迫り残り部分が少なくなってくると、否応なしに買い替えることになる。新年を迎える用意の一つである。
掲句はセロハンテープの指紋と日記が目の前に提示されているだけの極めてシンプルな構造で、他に何の説明も加えられてはいない。しかしながら、上五の「指紋濃き」の斡旋によって、掲句は一気に動き出すのだ。
何故に指紋が濃く付いているのか、セロハンテープの説明として「濃き」という二文字が添えられているだけで、一気に謎が深まりゆくところが掲句の最大の魅力だと思う。だからこそ、読み返せば読み返すほど、氷が融けゆくかのように、さまざまな情景が浮かび上がり詩情が深まってゆくのだ。
濃き指紋とあるから、念を入れ強めに貼り付けたのであろうか、そうではなくて少し汚れた指で貼り付けた為であろうか、それとも粘着性の強い厚めのセロハンテープを使ったのであろうか……などと、様々な想像を掻き立ててくれるので鑑賞する側も愉しくなってくる。
加えて、下五の「古日記」の斡旋の巧みさが光る。
「指紋」は紛れもなく一人ひとり違うものであるが、「日記」に書かれている内容も、間違いなく書いた本人特有のものであるという点で、両者が互いに響き合ってくるところも大変興味深い。
掲句の選者のひとりは、
「セロハンテープに指紋が付くという素朴な出来事と、日常を振り返る古日記という季語が非常によく響き合っていると思いました。指紋も日記も自分が生きている証だと思うと感慨深いです。」
と語ってくれた。
また、もう一人の選者も、
「セロハンテープにやたらくっきり映る指紋が、古い日記に書かれた自分のリアルな感情とマッチしていて素敵だなと思いました。日記は自分の黒歴史になりやすいですが、指紋のアイデンティティとともに生きている実感を思わせてくれる一句に仕上がっているのではないでしょうか。」
と感想を述べてくれている。
一方の作者は、
「どれだけ手を洗っているつもりでも、セロハンテープを使えばやっぱり指紋が残ります。一人一人違う形の指紋があるように、日記も人それぞれ。日記に残した生き方は前の年に置いておいて、新たな年、日記へ進みたいという思いです。「生きている証」を残しているという鑑賞をして頂いて感謝しています……!(日記に何を貼りつけていたのかは皆様の想像にお任せします)」
と作句の背景や鑑賞に対する感想を届けてくれた。
選者の弁にもある通り、指紋と日記の類似性を上手く浮かび上がらせてくれる手腕が見事。多くは語らず、セロハンテープと日記を取り合わせただけの句であるが、「言葉」と「言葉」を組み合わせることによって、たちまち、句が動き始め、これだけ詩情が漂ってくるという俳句の魅力のひとつに気付かせてくれる佳句である。
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