岡山大学俳句研究部より、9月の俳句が届きました。
今月の句は「長き夜のラジオ宇宙食の話」です。
解説
本来であれば、「長き夜」といえば秋の季語。しかし、今年のこの暑さでは、夜になっても、全く秋らしさは感じられないまま。
とはいえ、確実に日は短くなり、その反対に夜が長くなっていく今日この頃。頬杖をついて、物思いに耽ったり、想像を巡らせるようになるのもこれからの季節である。
筆者が学生の頃には、オールナイトニッポンやヤンタン(ヤングタウン)などを始めとするラジオの深夜番組を聴きながら、いわゆる「ながら族」として机に向かっていたものだ。
さて、掲句であるが、聴いている番組の中で「宇宙食」という言葉にふと耳を傾けたのか、はたまた、スウィッチは捻ったものの、放送は流れているだけで、真剣に耳を傾けるでもなく、ラジオ番組とは全く無関係に、ふと宇宙食のことを思いついたという状況も考えられる。いずれにしても、澄み切った夜空に星座がはっきりと見えるようになってくる季節になると、ベランダに出て星座を探すだけでも想像力を逞しくしてくれそうだ。
そう言えば、人が月に降り立ったのは、1969年、アポロ11号に乗ったアームストロング船長だった。「一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である。」という言葉は余りにも有名だ。
その少し前、筆者が中学生の頃だったろうか、買ってもらった天体望遠鏡と天文関係の月刊誌を片手に、毎日のようにベランダに出て望遠鏡を覗き込んでいたものだ。今でも土星の輪を見つけた時の感動を忘れることはできない。
掲句の詠者は、そんな宇宙をこと、そして宇宙を目指すことが当たり前になった現在において、飛行士がどんな宇宙食を食べているのかふと気になったというのだ。空想を巡らせている内、そう遠くない未来に、地球と宇宙を行き来する人類の姿までが、詠者には見えてきていたのではないだろうか。
それでは、選者二人の感想を聞いてみよう。
そのお一人は、
「長い夜はいろいろなことを考えたくなります。人類が未知の領域を探索する宇宙飛行士の健康を保つための宇宙食は、人間の科学技術の結晶です。長い夜に、謎だらけの宇宙のことを考えたくなりますが、この人はラジオから流れる宇宙食の話を聞き流しているようにも思えます。宇宙についてあまり興味がない人物なのでしょうか。でもちょっと気になっている、これは長い夜のせいなのかなあ、なんて思いました。宇宙じゃなくて、宇宙食の話、というのが好きです。」
と語ってくれた。
また、もうお一人からは、
「他の人は寝静まって静かな夜、別の部屋で一人ラジオを聞いている様子を思い浮かべました。視覚情報の無いラジオでは、語られる言葉によってのみ想像する必要があります。詠者が聞いているのは宇宙食の話。最近は宇宙食のアイスなどがあると聞きますが、きっと詠者は「どんな宇宙食なのだろう」「食べる時はやっぱり苦労するのかな」などと想像を膨らませ、意識だけが長き夜に放り出されて宇宙まで行ってしまっているのかもしれません。一読すると静かな景に見えますが、よく鑑賞してみると愉快な光景が広がっている面白い句だと感じました。」
というコメントを頂戴した。
そして、詠者自身は、「寝付けない日やもう少し起きていたい日に、たまたまつけたラジオから宇宙食の話が流れてきた、という景を描いています。長い夜、宇宙を連想しても、自分とは関係のない世界のように感じてしまう。ただ、宇宙食となると急に身近に感じる。なんとなく聞き流していたラジオからそんな面白さに気付いた作中主体は、その後眠ることができたのか……?そこは皆様のご想像にお任せします。」
と作句のきっかけを披露してくれた。
詠者、選者3人それぞれに捉え方に違いこそあれ、いずれも巧みな想像力の持ち主であることが伺える。
秋の夜長にそんなことを感じさせてくれる、ロマン溢れ想像力を膨らませてくれる素敵な句である。
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