岡山大学俳句研究部より、7月の俳句が届きました。
今月の句は「白百合の喫茶手書きのメニュー表」です。
解説
素敵な喫茶店のイメージが浮かんできます。場所はどこなのか、想像するだけでもワクワクしてくるような舞台設定、そして白百合はどこに…。店内に切り花として、或いは店の周囲を取り囲むように咲いているのであろうか?
解釈は勿論、読者の自由。
筆者は喫茶店の周囲に白百合が咲いている場面を想像してみたい。店の辺りは百合のあの強烈な匂いで溢れんばかりなのだ。
嘗て、信州に旅をすることがあったが、掲句を読んで、蓼科高原や白樺湖当りの景色を思い出してしまった。果たして、作者の詠う喫茶店は何処にあるのだろうなどと、喫茶店の在り処ばかりに興味をそそられてしまいそうだが、話題を句に戻そう。
掲句の季語は言うまでもなく「百合」で季節は夏。辞書によれば、ユリ科の多年草の花で、きわめて種類が多く、匂いの強いものが多いとある。
百合で思い出すのは、「谷間の百合」というタイトルのバルザックの小説であるが、タイトルにある「谷間の百合」とは、スズランの別名だそうなので、掲句の百合のイメージとは違う。掲句の百合は、渓谷などに凛と咲いている姿がお似合いだ。
さて、掲句に戻ろう。筆者の想像する喫茶店には、店内に、原木の香が溢れんばかり、手作りの椅子やテーブルが整然と並び、テーブルの上には、店主直筆の可愛いらしい文字で書かれた手書きのメニュー表が置いてある。
品書きには、店の雰囲気にピッタリの品名がずらりと並び、どれにしようか迷ってしまう。私なら、シフォンケーキにやや深煎りのコーヒーと行きたいものだ。
掲句を目にする読者も、きっと、思い思いの喫茶店を頭に描き、自分の座る場所を決め、徐にメニュー表を手に取って、何を頼もうかと悩み抜きながら、非日常の豊かで珠玉のひと時を経験するに違いない。
掲句には、「百合」、「喫茶店」そして「メニュー」がポンと置かれているだけなので、読者それぞれにイメージを描きながら句を鑑賞することができる。
それでは、掲句の選者の感想を聞かせてもらおう。
選者のひとりは、「メニュー表が手書きされている喫茶店、それだけでお店の優しさや温かさが伝わってきました。しかし、季語は白百合。ただ優しいだけではなく、強かさを秘めているように思いました。その地域で長く愛されている喫茶店を訪れた常連客である作中主体が、今年も夏が来たとしみじみ感じている景が想像できます。平易な言葉で淡々と描写されていますが、ドラマ性が隠れている素敵な句だと思います。」と鑑賞してくれている。
また、もう一人の選者は、異なる鑑賞をしてくれたようで、
「チェックの襟付きワンピースでも着て訪れたくなる喫茶店ですね!手書きのメニュー表をお客さんたちが愛おしそうに眺める様子が伝わりました。店主の字の癖なんかも想像したくなります。白百合という季語はみずみずしく清純なイメージです。私は友達とこそこそと恋バナをしたくなりました!おはなし中に素敵なすりガラスから綺麗に咲いた白百合が見えると嬉しくなりますね。」とコメントしてくれている。
ここで、いよいよ作者登場! 早速、作者の作句の動機と肝心の喫茶店の在り処を教えて頂こう。
「一昨年の夏休み、別府にある喫茶店を訪れたときの経験です。観光客はお目当てのものを探そうと、地元の方は慣れたように、みな店主直筆のメニュー表を開いていました。和気あいあいとした温かな雰囲気の喫茶店と、白百合の持つ華やかながらも静かな印象を楽しんでもらえればと思います。」と語ってくれた。
舞台は「別府」だった。
別府と云えば温泉で有名なところだが、温泉街の前には別府湾、後には、直ぐに丘陵が迫っていて緑も豊かなところ、ひょっとすると、10年ほど前、「地獄めぐり」で訪ねた時、掲句に詠まれた喫茶店の近くを通っていたのかもしれない。
今月の句は、言葉3つを提示するだけで余計なことは語らず、読者一人ひとりに自由に想像する余地を残してくれることによって、鑑賞後に寛ぎと清々しさ、そして安らぎまでも残してくれた佳句である。
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