岡山大学俳句研究部より、7月の俳句が届きました。
今月の句は「喉越しの良さげな金魚眺めたり」です。
解説
喉越しと聴けば、下賤な筆者などは、すぐさま某ビール会社のコマーシャルを思い出してしまうが、暑さ著しい夏には冷たい飲み物が一番、冷たいものが喉を通る時のあの清涼感は堪らない。
喉越しとは、飲食物が喉を通過する時の感覚のことであるが、掲句には「良さげな」とあるので、飲み込んだ時の心地良さを強く感じたのだろう。しかし、飲みこもうとしているものは、何と「金魚」なのだ。
振り返ってみれば、筆者も、魚介類を生きたまま食べた経験はあるものの、せいぜい、白魚や泥鰌、生海老など料理として提供されるもので、いずれも醤油や酢、酒の中に浸し、悶絶するところを飲み込む訳で残酷極まりない。喉ごしが良いと必ずしも言い切れないところがある。
ところが、掲句では鑑賞用の「金魚」を、飲み込んでみたくなるほどの衝動に駆らせた訳であるから半端ではない。
それも食欲からではなく、暑さでカラカラに乾いた喉を癒すが為に。
そうか、掲句では、飲み干したくなるものは、金魚そのものではなくて、金魚の涼しそうに泳ぐ姿なのだ。
ごく小さな金魚であればともかく、優雅に泳ぐ大きな蘭鋳やオランダ獅子頭などを想像した場合には、喉超し云々以前に、飲んだ本人が悶え苦しむであろうから…。
掲句について作者は、
「水の中で涼しそうに泳ぐ金魚を眺めながら、喉の渇きのままにぐっと飲み込んでしまえば暑さもいくぶんましになるかな、などと考えてしまう。金魚は眺めているだけで涼しい気分になるものだが、それだけでは済まないような暑さが続いている。」
とその動機を語ってくれているので、やはり、金魚を飲むという行為ではなく、目の前で泳いでいる金魚の涼し気なイメージを丸のみしたいという衝動が、作句に駆り立てたきっかけに違いない。
一方の選者は、「金魚のあの鮮やかな色と光沢に対し、その喉越しをおもわず想像し、夏の暑さゆえの渇きを思わせる表現だと感じました。すこしグロテスクな響きも、夏の季感と金魚の水槽を眺めているさまにしっくり合うなと思いました。」と鑑賞してくれている。
また、別の鑑賞者は「夏の表面と裏面を一句の中に破綻なく詠み込んでいて素敵な句だと思いました。」との感想を寄せてくれた。
作者、選者、鑑賞者それぞれに、金魚の色艶や泳ぐ様から感じ取ったものに微妙な差こそあれ、水槽の中を気持ちよさそうに泳いでいる金魚の涼し気な様子と、それを飲み込んでしまおうとする、暑さ故に生まれる狂気とでも言うべきものが中七の「げな」の二音に象徴されているようでもあり興味深い。
いずれにしても、目の前を泳いでいる金魚を飲み込むというユニーク且つ大胆な発想は、これまでに前例がないもので新鮮そのもの、現在、大学1回生という若き作者の今後の活躍を期待したい。
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