岡山大学俳句研究部より、3月の俳句が届きました。
今月の句は「巣立つ朝若布ちと多き味噌汁」です。

俳句のぼり(3月)

解説

家族との睦まじい日常生活の一幕が浮かび上がって来る佳句。

目に見えているものは味噌汁のお椀ただ一つであるが、上五の「巣立つ」と中七の「ちと」の言葉の斡旋によって、句が立版古のように立ち上がってくるから不思議だ。

場面は、新しい人生への一歩を踏み出そうとする子供が、親元を離れて行く時の家族との朝食のひと時を詠んだものであろう。家族の笑顔が見え、笑い声まで聴こえ来るかのようでもあり、家族の温もりが感じられて実に微笑ましく初春に相応しい句だ。

旅立ち、巣立ちの経験は、誰にでも訪れるが、その時期は、不安感と希望の間に挟まれる心不安定な頃でもある。

筆者の経験でも、親元を離れてから思い出すのは、母の味噌汁の味であった。味噌汁といえば、誰にとっても、母親の代名詞の様なもの、否、母そのものかもしれない。そのことを改めて気づかせてくれたことが、つい先日あった。

地元の高校生たちに、「世の中が変っても、いつまでも残しておきたいものは何?」と問うたところ、即座に「お母さんの作ってくれたお味噌汁」という答えが返ってきた時のことである。いつの世でも、お母さんの手作りの味噌汁の魅力は絶大のようだ。

掲句に対し、選者のコメントには、

「巣立ちの朝、見慣れていた何もかもが際立って見え、朝ごはんの味噌汁のちょっとしたイレギュラーさにも目を向けてしまうような切なさ、また、「ちと多き」の表現に、家族への親しげなツッコミのニュアンスがこもっていると同時に、若布を入れすぎたその人の緊張感まで読み取れるようで、温かな一句だと感じました」とある。

また、作者は作句の動機について、「定番の味噌汁でさえ、独り立ちする前には特別なものに感じます。(特に私は若布が大好きなので、若布の多さは家族の応援の大きさに等しい、とまで思います。)味噌汁の温かさと、自分のことを大切に思ってくれている家族の温かさ、どちらもが身体の芯に染みて幸せな気持ちで旅立っていく人の姿を感じ取っていただけると嬉しいです。」とあるが、選者の鑑賞が作者の狙い通りであり、掲句に手放しで共感してくれていることも嬉しい。

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