岡山大学俳句研究部より、12月の俳句が届きました。
今月の句は「来年は優しくならむ日記買ふ」です。
解説
今年は、掲句の作者にとって、対人関係で反省すべき点でもあったのだろうか?人に辛く当たってしまったとか、つい冷たい言葉を口にしてしまったとか…。
人間に後悔は付きもの。筆者にも、あの時ああしなければ良かったのに…、ああしておけばよかったのに…と悔やんだ経験は山ほど。
いちいちくよくよしても始まらないが、かと言って来し方を顧みることもせずに、安穏とした日々を送るのもどうかと思う。どちらが正しいと言う問題でもないので、生きていく上において、この辺りのバランスの取り方はとても難しい。
作者本人とは、これまで二度ほど会っただけであるが、物静かで、相手を罵倒するような言葉を吐けるような人にはとても見えない。むしろ、その逆で、気配りやその場の雰囲気を読みながら振舞える心優しき大学生だと思うので、掲句は、日常の振る舞いに決して満足せず、持ち前の優しさに更に磨きをかけようとする一心で詠んだ句ではあるまいか。
前置きが長くなってしまったが、掲句の季語は「日記買ふ」。一年間綴った古日記に別れを告げて、新年を迎える年の瀬の用意のひとつのことで、書店に足を運ぶと、とりどりの日記帳が所狭しと並んでいて、どれにしようかと悩んでしまうのは誰しも経験したことがあるはず。作者も迷いに迷った末、日記を買って来年の抱負を、この一句に認めたのだ。
句は「旧かなづかい」で表記されており、中七の最後にある「む」は、助動詞で未然形につき、まだ起こらない事を想像して述べる語であるが、どちらかと言えば、その実現を願ったり期待するような場合に使われることが多い。最近、殆ど使われることはないが、若い作者が敢えてこの助動詞を利用したのには深い訳がありそうだ。古人に対する畏敬の念、はたまた憧れであろうか。下五の「買ふ」の柔らかい響きも心地良い。
「旧かなづかい」ならではの趣が漂っていて暖かく包み込まれるような余韻が印象的だ。
作者からは、「年の瀬に来年はこうありたいと目標を立てる様子を、「日記買ふ」に託した一句に仕上げたつもりです。この句の主体は、毎日自省してもっと優しい人間になろうと柔らかく心に決めています。古語表記からもその温かみを感じていただけると嬉しいです。」との添え書きを頂戴している。
一方、句の選者は「毎日きちんと日記をつけていた時期があったのですが、今日の自分の気づきを記し留める当時の胸の内は、そうすることでもっと良い人間になれると信じていたように思います…「日記買ふ」という季語が最大限活かされる慎ましくもいじらしい上五・中七で、とても好きな一句です。」とコメントしてくれているので、作者の意図は、選者に確実に伝わっているに違いない。
掲句を通じて共鳴し合える作者も選者も根っからの優しさを持っているに違いない。
そんな優しさを求めて精進しようとする二人の姿勢は、今、野球界で世界中を驚嘆させている、「誰一人傷つけることのない」大谷翔平選手の姿勢にも通じるものがあって、とても爽やか。今日よりも明日を、明日より明後日を、もっともっと素晴らしい日にしていけるよう、日々、精進していってもらいたいもの。
新年を迎えるに当たり、大いなる夢と希望を与えてもらえる佳句だ。
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