岡山大学俳句研究部より、9月の俳句が届きました。
今月の句は「秋ともし余白少なき作品集」です。
解説
今年の夏は、高温が長く続き、熱中症という言葉が、最早、当たり前に聞こえてくるほどの猛暑に閉口する日々の連続だった。そんな中で、掲句は、長く続いた残暑に、漸く終止符を打ってくれた。
掲句の季語は「秋ともし」で、日暮れにともり始めた家々の灯りのことであるが、日没時間も早まり、気温が下がってくることとも相俟って、家路を急ぐ気持ちを誘われるし、夜長を照らす灯は、読書欲を掻き立てたり、人を思索へと誘い出す静けさを感じさせてくれる。
待ちに待った秋の夜ならではの心地良さを、作品集という心惹かれる素材を取り上げ、「秋ともし」という季語に対峙させることによって、読者ひとり一人に、様々な場面を想像させてくれて愉しい。
寂しさの漂いはじめた部屋にひとり座り作品集を読んでいるのは一体、誰なんだろう…学校の先生?学生さん?作家?それとも文芸大会の審査員?…はたまた、相対している作品集は、どんな作品集なんだろうかと…。
「余白少なし」とあるので、字のみっちり詰まった作品集に違いない。いや、文字に限らず、ひょっとすると、画やイラストかもしれない、などと想像を逞しくさせてくれる。作品集に目を通しながら、ページを捲っていく内に、作品にのめり込む登場人物の真剣な眼差しや顔の表情、息遣いまで伝わってくるようだ。
句の構成は到ってシンプル、動詞が含まれていないので句の姿は端正で、恰も備前焼の花瓶に活けられた一輪挿しのようでもある。修辞も巧みで、文字がぎっしり詰まった状況を、さらり「余白少なき」と表現したところも上手い。この様に表現することで、びっしり詰まった作品集から受ける暑苦しさは、吹き飛んで、季語の秋ともしと見事に釣り合うことになる。
掲句の選者は、「この句はやわらかな電灯の下、ぎちぎちに詰まった作品集を読んでいるという景です。秋の夜長のゆったりした感じと作品を提出した人や審査員の思いがたっぷりこもっている、ある意味忙しい作品集との対比がポイントです。わたしは一読したとき、作品集をいろいろに想像しました。文章であるにしろ、絵であるにしろ、内容の詰まった作品集を、すこしさみしく抒情的な秋の灯の下でじっくりと読む時間に思いが馳せられました。」と感想を添えてくれている。
前述のとおり、掲句は「作品集」と、それを優しく包み込もうとする「秋ともし」の対比という取り合わせの妙が光る佳句で、短冊に認め、机上にしばらく置いておきたくなるような端正な作品だ。何だか、無性に文字が恋しくなってきた。
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