岡山大学俳句研究部より、7月の俳句が届きました。
今月の句は「夏暁けや青いカーテン青い部屋」です。
解説
掲句の季語は「夏暁(なつあけ)」、季節は勿論、夏である。夏の夜は短く、ようやく寝入ったと思いきや、直ぐに東の空が白みかけてくる、そんなひんやりとした早暁の空気感を、青いカーテンに託して詠み込んだ誰しもが清涼感を覚える句である。
作者は、作句の動機を、「夏の夜明けに目覚めると、青いカーテンを閉め切った部屋がその色を映して青一色になっていたことに、束の間の涼しさを感じたことです。」と寄せてくれているが、感じたことを「夏暁」と「カーテン」と「部屋」を取り合わせるだけで見事に表現できる手腕には脱帽。
同時に、動詞が一切使われていないことが、掲句にべた付き感のない爽やかさを産んでいる。
筆者は、冷房がまだ普及していなかった小学生の頃、夏休みに入ると、朝6時頃起床し、涼しい内に、近所にラジオ体操にでかけ、戻って朝食を済ませると、前日の絵日記を書き、宿題をさっさと片付けて、10時を回り、蝉がやかましく鳴き始める頃には、決まって、麦わら帽子を被り、捕虫網と虫篭を持って、昆虫採集に出かけたものだった。
また、今では、凡そ信じられないことかもしれないが、山陽本線の旭川鉄橋の下で、列車の近づいてくる鉄路の金属音にスリルを感じながら、学友と良く泳いだものだ。
ところで、掲句のもうひとつの魅力にお気づきだろうか。
色に寒色系と暖色系、その中間色系があることは良く知られていて、掲句では、寒色系の青を巧みに使い、清涼感を引き出してくれているが、その瞬間に焦点を定め、詠い込んでいるが故に、やがて到来する部屋の様相の変化にまで思いを至らせる効果を持っている。
目覚めた頃、山際は淡い朱色に染まりつつあり、窓より斜めに射し来る光線は弱く、青色のカーテンは青色のままに部屋中を彩っていて、作者はその束の間の涼しさが、一分、一秒でも長く続いてもらえることを願っているのだ。やがて一変する部屋の惨状を避けたいとさえ願いながら…。
しかし、そんな願望もほんの束の間、太陽が昇るに連れ、カーテンを透過する強い光線の所為で、部屋中、ギラギラとした黄金色の世界へと一変、最早、青色に留まることはない。願望は脆くも崩れ去ってしまう。
繰り返しになるが、動詞を一切使わず、名詞の組み合わせに青という色を取り合わせることによって、時の変化や、願わくは、このひんやりとした青に包まれた雰囲気が存えてくれるようにと祈る作者の心象風景の変化まで想像させてくれる端正な一句。
そろそろ梅雨明けを迎えようとするこの時期にピッタリの佳句である。
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