岡山大学俳句研究部より、5月の俳句が届きました。
今月の句は「こうばしき瞳に出会ふ薄暑光」です。
解説
掲句の季語は「薄暑光」で季節は初夏。初夏は、陰暦の4月のことなので、丁度、今頃に当たる。
作者は、添え書きに「薄暑の頃の光に透かされた瞳が、とくべつに健やかな色をして見えた。薄暑光という季語には、いっきに明るさを増していく季感が凝縮されているようで、惹かれました。」と寄せてくれた。
「こうばしい」と聞けば、筆者は、直ぐに、香りの良い珈琲のことを連想してしまうが、改めて、辞書で「こうばしい」を引いてみると
①ほんのりと焦げたような良い匂い、香りが良い、かぐわしいとある。
一方で、
②心が惹かれる、望ましく思う。
と記されているが、②の方は、専ら、古語の世界で使われ、現代では使用されることはないようなので、掲句の「こうばしい」は、①の意と解釈すべきであるが、その中でも、筆者が思い浮かべる「ほんのりと焦げたような良い匂い」ではなくて、「香り」或いは「かぐわしい」に近い感覚であろうか。
と言うのも、「香り」や「かぐわしい」という言葉には、「つややかな美しさ」とか「すぐれた雰囲気」という、必ずしも嗅覚に依存しない意もあるからだ。
作者は、新緑が眩しく、辺り一面、瑞々しさに溢れる初夏の光の中で、美しい瞳に出会った訳であるが、その瞳には、周囲の初夏の健やかな森羅万象が見事に投影されていて、瞳は、最早、単なる眼でなくなっているように感じられたに違いない。作者が、五感全てで感じ取った初夏の健やかな気分を、「こうばしい瞳」に出会ったことで、その瞳全てに託し、初夏を表現し切った作者の手腕に脱帽だ。
ところで、筆者は、「薄暑」もさることながら「こうばしい」という言葉も好きだ。筆者の場合、「ほんのりと焦げたような良い匂い」の方であるが…。
と言うのも、最近、凝っている珈琲の所為かもしれない。
珈琲の香りや味は、産地や、煎り方、淹れ方、使用する器具などの組合せで、自在に変化していくが、時間をかけたそのプロセスが愉しく、毎回、異なった豆を選んで焙煎してもらうのが日課となっている。豆を選び煎ってもらう20分ほどの時間は、ほんのりと焦げゆくアロマ香の微妙な変化を感じることのできる、正に珠玉の時間である。
今は、果物の甘度さえ数値化される時代であるが、ほんのり焦げゆく香ばしさを測る機器が登場してきたらどうだろう?便利には違いなかろうが、ステーキを焼く場合もそうであるように、職人による焼くと言う行為と職人ならではの微妙な焼き加減にも惹かれるものがあるので、どちらが良いとも判断し辛い。
今月の句は、筆者にこんなことまで考えさせてくれた、感性煌めく爽やかな一句である。
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