岡山大学俳句研究部より、3月の俳句が届きました。
今月の句は「対岸のかがやき春の渚かな」です。
俳句のぼり(3月)

解説

掲句からは、春の波打ち際に寄せ来る優しく穏やかな波の表情や、対岸に寄せる波のきらめきによって、一面眩しくさえ感じられる長閑な景が目に浮かんでくるようだ。

日本語には、色の微妙な違いを表す言葉が数多くあるが、波の表情を表す言葉も様々である。荒磯波、五百重波(いおえなみ)、男波(おなみ)、細波、五月波、白波、高波…他、枚挙に暇がないが、改めて、波の様々な表情を言葉で見事に表現できる日本人の繊細な感性には驚かされる。掲句に詠まれた波の表情は、果たしてどんなものだったであろうか…。

作者は、「この句は、牛窓を訪れた時に、ひとり吟行のつもりで作ったものです。ぽかぽかと暖かい陽光に、周りのものすべてが遠くに感じられ、それでいて懐かしく、自分にとっていつしか親しみ深いものとなったその感覚を素直に詠みました。」と作句の動機を寄せてくれているが、私も、牛窓は大好きな場所で、時折、吟行会を開いたり、遠来の旧友を連れて訪れることも良くある。

岡山方面から車で訪れる場合、2号線のバイパスを経由し、ブルーラインに乗ってしまえば、市内から30分足らずの距離なので、気軽に足を運べるところも魅力のひとつだ。

ブルーラインの邑久ICを降りると、ほどなく、竹下夢二の生家があり、海岸に向かって更に車を少し走らせれば、備前焼の先駆けとも言われる「寒風古窯跡群」もあって、陶芸会館の裏山には、当時を偲ばせる窯の跡が残されている。

その先にある丘陵には、オリーブ園があり、丘を登り詰めると、眼の前には小豆島が拡がり、眼下には前島をはじめ、数多の小島が、それぞれに特徴的な顔を見せてくれて愉しく、天気さえ良ければ、左前方には赤穂から姫路辺りまで見渡せる絶景スポットである。

オリーブ園を下り、海岸沿いを走ると、美術館や、見晴らしの良いお洒落なカフェやレストランがあり、どのお店にも、ゆったりとした時間が流れていて市街地の喧騒を忘れさせてくれる。

作者は、こうした情景を眺めながら、お気に入りの渚に佇むことになったのだ。

「ふと遠くに目を遣ると、対岸の島が春の光に包まれてあたたかそうにかがやいているように感じられたことが、掲句の生まれるきっかけになった。」と伝えてくれた。

素直な表現で平易な句ではあるが、春の渚の穏やかな表情が見え、波音も聴こえ、作者の心の落ち着き、平静さまでも感じ取ることができて、まるで一幅の淡彩画でも眺めているような気分にさせてくれる春らしい佳句である。

岡山大学俳句研究部 過去の作品

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