岡山大学俳句研究部より、12月の俳句が届きました。
今月の句は「さたさたと立てるお抹茶冬うらら」です。
解説
茶を点てるという行為は、不思議に人を引き付けるものがある。
千の利休が大成した客人を招いて抹茶を点て、会席の饗応をする公式な接客の場としての茶道。
利休の子孫は、表千家、裏千家、武者小路千家と別れ、更にその他の流派も誕生して、現在に至っている。私も幼い頃、藪ノ内流を齧ったという父のお点前に与ったことが何度もあったが、そんな経験があってか、社会人になってから、興味本位に、ほんの少しの間、茶道部に籍を置いたこともあった。
当時教わった作法や、手に取った茶道具の数々は、今でも記憶に新しい。一口に道具と云っても様々で、代表格である「風炉」に「茶柄杓」、「棗」に「茶筅」などの床しい名前が思い出されてくる。また、茶道では季節感を大切にするのも特徴のようで、季節によって茶碗を変えるなど、日本人ならではの繊細な美意識が見え隠れしていることも床しい。
茶の湯は、このように長きに亘り引き継がれてきた日本独自の文化ではあるが、最近では、アブダビ他、諸外国でも、その普遍性精神性に惹かれて、関心が高まってきつつあるようで、世界からも注目されていると言うことはとても喜ばしいことである。
前置きが長くなってしまったが、掲句はそんなお茶を点てる場面を描いたものであるが、「さたさた」というオノマトペが、兎に角良く利いている。茶筅で茶を点てる時の、あの得も言われぬ暖かく柔らかい音を「さたさた」という擬音語で表現したのは凄い!
お茶を点てる時の音は勿論、音を創造する柔軟でしなやか手首や指先の繊細な動き、その結果誕生するきめ細やかな泡の一粒一粒のきらめきまでが、この「さたさた」4音から浮かび上がってくるではないか。
掲句の選者は、
「さたさたという擬態語がすてきです…あたたかい冬の午後の静けさに、ただそれだけが響いているさまがありありと浮かんできます…そうして、“お抹茶”を点てているという丁寧な表現方法から、作者の過ごしている時間の優雅さ、贅沢さへの自覚が滲み出てくるようで、とてもいとおしいです。」とコメントを残してくれている。
一方、作者は、茶道部のお茶会に参加し、部員の方がお茶を点てている景を見た時に、寒そうな部屋で冷たい畳の上に着座しているものの、軽やかに、かつ丁寧に、誰かのために点てているお抹茶から特別な印象を受けたことが作句のきっかけだと語ってくれている。
「冬の引き締まった緊張感の中で感じる温かさ、美しく鮮やかなお茶の緑、茶筅やお湯を注ぐ音、お茶の香りと味などが折り重なって五感を刺激する句に仕上がってくれていればと思います。」という言葉を添えて…。
掲句の季語は「冬うらら」、筆者にとってもこの季語は好みのひとつで、しばしば使わせてもらっているが、風のない冬の晴天のこと。
掲句では、凛として身の引き締まるような室内と、澄み切った冬の空を対照的に取り上げているが、部屋の内でお茶を点てる時に生まれる「さたさた」という擬態語を斡旋することによって、お茶を点てる人物が突然動き始め、その一挙手一投足までが具に見えて来るようで、活き活きとした温もりの感じられる作品に仕上がった。
そうさせたのも、常日頃から、身の回りに存在する小さなことに目を向け続ける作者の飽くなき探求心と、心の中に秘める生きていることに対する執着心ではあるまいか。
掲句は作者の日々の暮らしの中で見つけた非日常のひとこまを取り上げ、読者に、オノマトペでさらりと味付けしてみせたものであるが、シンプルな景を描きながらも、読者の心に温かく幸福感に満ちた余韻を残してくれる作品に仕上げた作者の手腕に拍手を送りたい。
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