岡山大学俳句研究部より、11月の俳句が届きました。

今月の句は「冬の月シルクロードを地図に描く」です。
俳句のぼり

解説

シルクロードと聴いただけでこの上ないロマンを搔き立てられてしまう人は多かろうが、筆者もその一人である。音楽でも、美術の世界でも、シルクロードに魅了され、多くの芸術家がテーマとして取り上げている人気抜群の景でもある。

「月の沙漠」という童謡があるが、その歌詞に登場するシーンそのままがすっぽり掲句に収めているようにすら思えてくるスケールの大きな句だ。

シルクロードを経験することは容易いものではないが、かれこれ40年ほど前のこと、偶々、筆者が仕事で家族と2年間暮らすことになった砂漠の地サウジアラビヤで、ラクダの親子に遭遇し、シルクロードの雰囲気を疑似体験をすることになった。ラクダ親子に出会ったのは、3月頃のこと、その頃は, シマリーアと呼ばれる北からの強い季節風が吹いてサウジでも、コートが欲しくなるほどの時期である。

ところで、話は逸れるが、ここでラクダの瘤の話を少し…。

先日、県立美術館で開催中の「シルクロード展」に足を運んでみたが、会場に展示してあったラクダに、瘤は二つあった。

一方、筆者がサウジアラビアで見た前述のラクダの瘤は一つで、記憶を辿れば、二瘤ラクダより背も高く、足も長かったように記憶している。何故二種類が棲息しているのか、知る由もないが、進化の過程、或いは、背負わされた役目などの理由から、二種類に分かれていったのかもしれない。

ここまで、筆者の個人的な思い出を長々と書き連ねてしまうことになったが、シルクロードとは、ことほど左様に、人それぞれに思いを馳せることのできるロマンティックなテーマであることは間違いない。

掲句は、地図の上にシルクロードを描いたという事実を述べているに過ぎないが、季語の「冬の月」とあいまって、人それぞれに浪漫を掻き立てさせてくれる作品に仕上がっている。

作者は、作句の動機を、「私にとって、冬の月は他の季節の月よりもずっと憧れが強い。冬の月の白く高貴な印象がシルクロードと重なる。地図を描く人物の頭には夢のような情景が広がっているに違いない。冬のシルクロードを歩いたキャラバンを想起でき、月は過去と現在を結んでくれているような気がする。」と語ってくれているが、発想の原点は、冬の月の凛とした光から、透明感漂うシルクロードを連想できたところにあったようだ。

一方、選者は、

「わたしは、掲句から、 “この辺りがシルクロードである…”と、嘗ての歴史の授業中のことを思い浮かべ、地図に描き入れるという無機的ではあるが、浪漫溢れる動作、地図上に有機的な世界を広げていく作業と、周囲を煌々と照らす冴えた冬の月の光とが響き合っていて素敵だと感じた。今・ここ・私という俳句の原則からはずれてしまう意見かもしれないが、厳かに運ばれていく絹織物に月の光が照っている様まで鮮やかに目に浮かんだ。」とコメントしてくれた。

また、別の選者は、「私にも、冬の月とシルクロードの孤高の美しさが伝わってきて、主人公の描くシルクロードの線の流れまで美しく見えました。」と鑑賞してくれている。

いずれにしても、「月の沙漠をはるばると旅の駱駝がゆきました。…」の童謡そのままの世界を彷徨いたくなりそうな浪漫を感じさせてくれる空気感たっぷりで透明感のある一句である。

今宵は、シルクロードを思い浮かべながら、ロマンティックな夢を見ることにしよう。

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