岡山大学俳句研究部より、10月の俳句が届きました。
今月の句は「合唱の間奏に私語赤とんぼ」です。
解説
秋の季語である「赤とんぼ」。
筆者と同年配の方たちにとっては、「夕焼け小焼けの~」と思わず口ずさんでしまいたくなるほど郷愁を誘われる動物のひとつでもある。
掲句の舞台は、とある学校の教室。
室内には、合唱の練習をする生徒たちの熱気が溢れ、弥が上にも緊張感が漂っている。そんな緊張感が長く続く訳はない。やがて誰かがひと言を発し、それを制するかのように、近くの生徒から言葉が飛んで、室内の空気は立ちどころに暗転、その空気を感じて、積極的に意見する生徒やただ静観するにとどまる生徒、そんな空気を感じて、生徒達をどうやって宥めようかと神経を尖らせている教師など、同じ舞台に居ながら、それぞれの意識や行動の違いを「合唱」と「私語」のたった2語によって、読者の目に髣髴とさせてくれる力量は並大抵のものではない。
そんな教室の外では、教室内の喧騒を知ってか知らずか、赤とんぼが、ただ悠然と飛び交っている。
掲句は、人間界で生きる煩わしさと、自然界の平和な落ち着いた景を、それぞれを象徴する「合唱」と「赤とんぼ」のたった二語により対比させてくれているかのようでもあり味わい深い。
句の作者は、「合唱コンクールの練習中、私語を続ける男子、注意する女子、全部どうでもいいと思って傍観者になる生徒、この後どうやって喝を入れようか考えている担任……。教室にいる様々な人物を赤とんぼが軽やかに包み、その教室の日常を描いた句を詠んだつもりです。当時は日常のほんの一幕でしたが、今、振り返ってみると、尊い一瞬だったのだとしみじみ感じるので、読者の皆様にも同じように感じていただけると幸いです。」と掲句を創るきっかけを語ってくれた。
筆者は、評に書かせてもらった通り、作者の意図を十分に感じ取ることができたように感じているが、さて読者の方々はどうだろうか?
因みに、掲句の選者は、
「秋の高い空、湿度の減った空間を縦横無尽に軽やかに飛び交う赤とんぼと、ちょっと緊張感のある合唱のさなかにぽつぽつと聞こえてくる私語の取り合わせが巧いなと思いました。わたし自身の文化祭の記憶まで、秋の淡い光のなかによみがえってくるようです……。」と評してくれた。
選者も、筆者同様、やはり室内にある緊張感と自由奔放にふるまうことのできる自然界への憧れのようなものを知らず知らずの内に感じ取ってくれていたのであろう。
読後、いつまでも赤とんぼの一小節がリフレインのように蘇り、郷愁を誘い続けてくれる、この季節ならではの佳句である。
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