岡山大学俳句研究部より、6月の俳句が届きました。

今月の句は「梅雨の雷つっかけ外に出したまま」です。俳句のぼり(6月)

解説

岡山もそろそろ梅雨入り間近。今回は、今の季節にピッタリの句を紹介します。

「梅雨」は、暦の上では、丁度、今頃から三十日余りの期間をさしますが、この時期は、梅の実が熟す頃なので、「入梅」と呼んだり、黴の発生しやすい時期なので「黴雨」と呼ばれることもあります。また、梅雨前線の活発化する時には、天候も不順で、時に雷を伴うこともあります。何となく、気分も沈みがちで鬱屈とした気持ちに陥りやすい、季節に当たります。

掲句はそんな梅雨の季節の一齣を切り取った、「つっかけ」が登場するだけのシンプルな作品ですが、それだけに、却って、読者の心に得も言われぬ余韻が残り不思議な気分にさせてくれます。

「つっかけ(突っ掛け)」は、簡単な履物で、余所行きではありませんので脱いである場所は玄関ではなくて、おそらく庭先かベランダでしょう。

そんな時、突然、雷が鳴って雨が降り始めました。はっと気が付いた時には、庭先に脱いであった「つっかけ」は既にずぶ濡れ、自分で逃げることのできない「つっかけ」に対して申し訳なさを感じると同時に、動くことのできない物に対する憐憫の情が湧いてきて、掲句が誕生したのではないでしょうか?

作者は、「雨の日にベランダにつっかけを出したままにしていることがよくあるので、それをそのまま詠みました。自分は屋内にいるのに、外にあるつっかけは雷を伴うような激しい雨に打たれ続けている、自分が中に入れてあげない限り、「つっかけ」は雨に打たれ続けることに耐えるしかない。人間の怠惰と無機物の切なさが混じった句になったのではないかと思います。」と語ってくれた。

一方、掲句の選者は、「玄関ではないところからふらっと外へでてきたあと、ちょっとの間を隔てて雷の鳴り出すスリル、そうして安全な部屋から戸外の様子を思ってみて、つっかけを出しっぱなしにしまっていることを思い出す、雷の日の心の動きと状況の変化、空気までもがスッキリした一行に詰まっている句だと思いました。つっかけで歩く時のじゃりじゃりいう音が、梅雨の湿った空気のなかでよりはっきりと耳に反響する感じを思いました。」とコメントしてくれています。

雷が鳴って突如揺れ動く心と、普段思い出すこともない「つっかけ」に想いを馳せらせた作者の心の優しさが滲み出て、鬱屈とした梅雨の季節を払拭してくれるかのようで、読み返す内に、爽やかさだけが筆者の心の奥に残りましたが、さて、読者の皆様はどうだったでしょう?

 

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