岡山大学俳句研究部より、10月の俳句が届きました。
今月の句は「お手玉の数増やしたる稲の花」です。
俳句のぼり(10月)

解説

わが家の近くの田んぼでは、早くも、稲が穂を垂れ、少し黄色く色づくようになってきたところだが、掲句は、その少し前、稲の茎の先に、白い小型の穂のように群がり咲く受粉間もないことを知らせてくれる花の頃を詠んだもので、その光景は実りを予感させてくれる。

農家の皆さんにとっては、それまでの長い月日が、報われる思いのする頃である。

掲句は、秋の季語「稲の花」に、最近では、あまり見られなくなった昔懐かしい「お手玉」をぶつけた二物衝撃の句であり、句材そのものの魅力も然ることながら、それ以上に、両句材の取り合わせの妙が、斬新さを感じさせてくれて興味深い。

私にも、嘗て、お手玉の経験はあるが、2つまでが精一杯という体たらく、3つに増やそうとすると、もうお手上げで、一気に難易度が上がっていくような気がしたものだ。何事も上達していく為には、並々ならぬ努力が必要になってくるのは当たり前のこと。

お手玉の修練と比較すべくもないが、都会に暮らす人々の多くにとっては、代掻き、田植えから始まり、米が収穫できるまでの、農家の皆さんの努力を知る由もない。

半年に及ぶ一日も欠かせない努力の結果が、今、漸く稲の花を咲かせることになったのだ。お百姓さんの歓びは如何許りであろうか。

そんな農家の皆さんの達成感に満ち満ちた顔と、お手玉の数を増やすことのできた満足げな顔や心の充足感までが、句の奥深くで響き合ってくる爽やかな佳句だ。

余談になるが、今や、ネットで買えないものはないくらいになった便利な世の中である。そのことを否定するつもりは無いが、ネット上で、お米や魚、肉、其の他何でも買えるのは、お米を作っている人たちや、漁師さん、畜産農家の皆さん他,物を生み出してくれる人たちが居てくれてこその話。

世の中、便利になっていくのは良いことであるが、その裏には、必ず、ものづくりをするたちのいることを、改めて考えさせてくれる現代社会へ警鐘を鳴らす句だとまで言ってしまうと言い過ぎであろうか?

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