岡山大学俳句研究部より、9月の俳句が届きました。
今月の句は「銀漢や便せん選ぶ示指のつめ」です。
解説
俳句に関する書簡のやり取りの多い者のひとりとして、四季折々の便箋や封印用シール、切手などを買い求めることが、今では、日常の楽しみの一つにもなっているが、書簡を送る相手が、男性なのか女性なのか、年齢や性格、その人の好みやセンスなどを思い浮かべながら、どの便箋にしようかと迷いつつ選ぶ時間は楽しいものである。
掲句は、選ぶ時の心の動きを、「示指のつめ」に焦点を当てて詠んだものだ。
選者は、「銀漢という季語によって、便箋を送る相手への想像が広がる感じがする」と感想を漏らしてくれているが、まさに同感である。
掲句の季語は「銀漢」で季節は秋。
「天の川」のことを指すが、「銀河」や「銀漢」とも呼ばれ、作者は、後者の「銀漢」を選んだのだ。
この「銀漢(ギンカン)」という耳障りの良い響きは、宙の拡がりを感じることができるし、「漢」の字からは、中国の悠久の歴史や歴代の王朝名までに想いを馳せることができるので、私の好みの季語のひとつでもある。
そんな、天の川の浮かぶ深夜、作者は、大切な人に手紙を書こうとして、手持ちの便箋のどれを使おうかと迷っているのだ。
食事の時に、菜を取ろうとして、箸をあれやこれやと種々のものに向けることを言う「迷い箸(惑い箸)」という無作法さを言い表す言葉があるが、掲句の場合は、人差し指が、送る相手のことを思い浮かべ、どの便箋を使えば喜んでくれるだろうかと、大いに迷っている微笑ましい光景である。そうした微妙な心の動き・戸惑いを「選ぶ示指のつめ」という表現に託したところが見事である。
同じ星の下に暮らす相手のことを思い浮かべながら、便箋を選んでいる作者の、心のときめきまでが、銀漢を伝わって相手に届くことすらありそうな幻想を抱かせてくれる、この季節ならではの涼やかで爽やかな佳句である。
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