岡山大学俳句研究部より、8月の俳句が届きました。
今月の句は「一行の日記つけたる蛍かな」です。
俳句のぼり

解説

蛍には、源氏ボタルと平家ボタルの二種類があり、初夏の5,6月に、先ず、やや大きめの源氏ボタルが登場し、約半月遅れて小型の平家ボタルが現れる。

夏には、欠かせない風物詩であるが、最近では、見ることのできる場所もめっきり減り、寂しい限りだ。

掲句の季語は「蛍」で、季節は夏、5,6月頃に最盛期を迎えるので、季節は今から、少し遡ることになるが、「蛍」を「秋の蛍」と読み替えてみても、何ら違和感はない。

秋には「秋の蛍」と言う季語も、歴としても名を連ねている。

いわゆる平家ボタルの残党のことを指し、「残り蛍」、「病蛍」とも呼ばれて、八月の立秋頃まで、細々と存えるそうであるが、お目にかかることは滅多になく、言葉の響きから、平家に纏わる悲劇の舞台が蘇り、えも言われぬ物悲しさが漂ってくる。

掲句の作者は、日々の出来事や感じたことなどを振り返り、毎日、きちんと日記に記しているのだろう。しかも、一行という凝縮された形で。

作者は、作句のきっかけについて、「一日の中から浮かび上がる一行を認めた時、蛍の光がやさしく照らしてくれているように感じられた」と漏らしているが、その一行は、ひょっとして、俳句の姿をしていたのかもしれない、などと想像力を掻き立てられて愉しい。

作者にとっては、今日もきっと良い一日であったに違いない。就寝前に、一日を振り返りながら、凝縮した一行に認めようと集中する作者の真剣なまなざし、そんな時、作者の一日を祝福するかのように、蛍が飛来し、精一杯の力を振りしぼって産み出す神秘の光で作者の一行日記を暖かく包んでくれたように感じたのだ。

一方、句の選者は、「その日一日を凝縮し、象徴させるような一行を、その内容の取るに足る、足りぬにかかわらず、蛍のやわらかい光がさらりと照らしだすような情景の浮かぶ句だと感じると同時に、先月の季題「西日」の舞台から、今月の句の「一日が暮れて眠る前のひととき」を詠じる夜の秋を感じさせてくれる舞台まで、ひと月で季節が移ろいだように感じられて、なんだかうれしく思います。」と感性に富んだ想いを漏らしてくれている。

作者には、掲句のように、細々とした状況説明は省略され、目の前にあるものを切り取り、読み手に提示するだけで、訴えてくる作品が多いが、今回も、「一行の日記」と「蛍」の斡旋により、単純化された景がくっきりと浮かび上がって、読者に一層奥深い詩情を呼び覚ます結果となった。余計なことを語らず、不要なものを、一切排除した俳句のお手本のような句だ。

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