岡山大学俳句研究部より、1月の俳句が届きました。
今月の句は「隧道をぬけて車窓に寒の紅」です。
解説
作者は、「暗い隧道を抜けるあいだ、車窓に映った自分の顔を眺めていたが、隧道を抜けた瞬間に、寒の紅の鮮やかさの像だけが残っていた。」と作った時のことを知らせてくれました。
また、作者にとって、「車窓」というのは大好きなモチーフのひとつで、この作品もかなり感覚的に詠んだものだとの註も添えられていました。
掲句の季語は「寒」で、季節はもちろん冬。
作者と同じく、私自身もトンネルは好みのモチーフの一つであるが、実生活でもトンネルを出入りする度に味わう“閉塞感が一瞬のうちに解放される瞬間”を迎えた時のあの独特の高揚感が堪らなく好きです。トンネル通過時に目にするものは、車窓に映る虚ろな自分の顔とトンネル内の照明、そして対向車のヘッドライトだけという退屈の連続で、心は暗闇から一刻も早く脱出したいと逸るばかり。やがて出口の光明が見えてきた瞬間、まるで未知の世界に飛び込んできたかのような昂奮を覚えてしまいます。
そんなことを考えているうちに、掲句を構成する重要な言葉「隧道(トンネル)」と「寒」から想起されてきたのが、川端康成の「雪国」の冒頭の一節。
長年、東北に暮らしたこともあって、私にとって「雪国」と言えば、宮城県から笹谷峠というトンネルを超えて山形県に入った時の辺りの情景。トンネルを超えると、積雪量が一気に増えて、一面まさに雪国の様相を呈することとなるのです。
掲句の場合、隧道の先に待ち受けていたものは、紅色の花だった訳ですが、トンネルを通過する時の微妙な心の変化を、目に飛び込んできた紅色の花に代弁させているかのように感じさせてしまうところは技巧的です。
果して、真っ暗闇から出た瞬間、「暗」から「明」へと舞台が転換した刹那、目に飛び込んできた紅色は、作者にとってどんなに鮮やかに映ったことでしょう!
その情景と作者の驚きの表情までが目に浮かび、心象変化が実景の変化と表裏一体となって響き合う佳句です。
掲句は、作者が昨年末に詠んでくれたものですが、2022年もすでに明けて2週間、丁度今、トンネルを抜け出たところ。一日も早いコロナ禍の終息を願うと共に、掲句のごとく、ハッと驚かされるような鮮やかで美しい新世界の到来を見たいものです。
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