岡山大学俳句研究部より、10月の俳句が届きました。
今月の句は「芋嵐しかけ絵本を開きけり」です。
解説
掲句の季語は、「芋嵐」で、季節は秋。里芋の葉が大揺れになるほどの風のことを指します。私が、最近ウォーキング中に見かける里芋の茎と葉も、実に堂々としており、悠然と風に揺らぐ姿はしなやかで大らか、実に格好良い。
中七にある「しかけ絵本」は、英語で「pop-up picture book」と表現されており、本を開くと、描かれているものが立ち上がり立体的になる絵本のことです。
日本には、「起し絵(=立版古:たてばんこ)」という夏の季語(物語の一場面や名勝の景を厚紙に切り抜いて芝居の舞台のように框の中に立てたもの)がありますが、いずれも平板なものを立体的なものに変容させることにより、視覚に訴える効果を狙ったものでしょう。
起し絵(立版古)を詠んだ句は、珍しいですが、
*起し絵の男を殺す女かな …中村草田男
*さし覗く舞子の顔や立版古 …後藤夜半 などがあります。
さて、仕掛け絵本と言っても、その構造は比較的シンプルなものから、複雑且つ豪華なものまで、種類も様々ですが、「芋嵐」と釣り合うという意味では、単純な構造のものではなく、複雑豪華な「しかけ絵本」であってほしい。
句の意味は平易で、「仕掛け絵本」を開くほどの風が吹き抜けていったということですが、掲句の手柄は、単なる「絵本」では無く、「しかけ絵本」という言葉の斡旋にあります。
家の周りを吹き荒れている芋嵐が、置いてあった「しかけ絵本」を開いたことによって、仕掛け絵が一気に立ち上がり、3次元の「ものがたり」へと展開していく様が、更に「しかけ絵本」と葛藤を続ける風の表情までが見えてくるようで不思議です。
下五に置かれた「開きけり」は、風が本を開いたとも、作者が本を開いたとも取れますが、それはどちらでも良い。「しかけ絵本」を句中に配すことによって、掲句は一気に立ち上がり、家の外を吹きすさぶ芋嵐の実景にまで思いを至らしめるスケールの大きな句となりました。
選句者の鑑賞文には、
「強くパリッとした秋風が、開いた仕掛け絵本の立体的な世界を吹き抜けていくようである。」
とあります。まさに、立体的で堂々たる一句です。
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