岡山大学俳句研究部より、9月の俳句が届きました。
今月の句は「虫干や膝立てて父眠りをり」です。
作者コメント
からりと晴れた日に、疲れた父が無防備に眠っている。そのような休日をイメージして作りました。
解説
掲句の季語は「虫干」で、歳時記には、「梅雨明けに、衣装や書物を陰干し、湿気を取り、黴や虫の害を防ぐこと。晴天の日を選ぶことが多いので、土用干しともいう」とあります。
従って、季節感から言うと、今を遡ること2ヶ月ほど前を詠んだものになるでしょうか?
そんな或る日、何の気兼ねもなく、居間で眠っている父親の姿を、作者が優しく見守っているという構図であるが、まるで昭和初期の映画にある平和な1シーンを見ているようで、実に微笑ましい。
上五の「虫干や」の斡旋は効果的で、眼前にある無防備に膝を立て眠っている父親の姿からは、蒸し暑く鬱陶しい梅雨の時期に汗を掻きながら働き続けてきた父親の姿が重なって見えてきます。
膝を立てて眠っているというから、よほど疲れていたのでしょう。長い間の立ち仕事などで足に疲れが溜まっている時には、睡眠中に足のやり場に困り果て、膝を立てたりするのは誰しも経験することです。
掲句のストーリー性から云えば、「父」を中七の頭に置いてみても良さそうですが、句が散文的になることを回避する為、敢えて「父」を中七の最後に持ってきたのでしょう。その結果、句にアクセントが生まれ、父の姿がまるで、畳部屋の真ん中に置かれた涅槃像の様にも見えてくるから不思議です。あたかも父の膝が、山の頂であるかのように…。
今時の娘さんなら、ごろごろ寝転がっている父親でも見つけようものなら、煙たがって、目を背けることも多いでしょう。しかし、掲句の作者は、違います。心の奥深いところに、きっと父親への畏敬の念を持ち合わせているに違いないのです。傍らから、父を起すまいと、優しくそっと見守る眼差しが感じられ、心地よい佳句です。
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